数々の銘菓を創り出してきた和菓子の名店
多くの観光客が立ち寄る和菓子店の平井製菓。
下田では最も規模の大きい和菓子屋にかかわらず
丁寧な手作業で作り出す「下田あんパン」が反響を呼ぶ。
一日に1000個、多いときで2000個以上を売り上げる<あんパン>があるのをご存知でしょうか。
こんがりと焼けた香ばしい生地の香り、舌触りのよい上品なあんこ。
一度食べるとまた食べたくなってしまう、そんな後をひくあんパンが下田にあるのです。
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落ち着いた雰囲気の店内には<天城路>や<下田文庫>など人気の下田銘菓が並び、その傍らには人気のあんパンも並んでいます。
そんな大人気のあんパンを生み出したのは、昭和23年に創業した<平井製菓>。
昭和36年の伊豆急行開通と同時に発売された<下田天城路>で一躍有名となり、その後<下田文庫><金目鯛最中>など下田という土地ならではの銘菓を打ち出してきました。
当時はそうした銘菓のほか、いろんな種類のパンを製造していたそうです。
その後職人の退職をきっかけに種類を絞り、あんパンだけを残すことにしました。
そうして最初に販売されたのが<下田あんパン>でした。
それに加え、新たに<ハリスさんの牛乳あんパン>の販売を開始したのが平成14年のこと。
発売当初は一日10個くらいしか売れなかったというこの牛乳あんパンですが、今では下田内外にファンを持つ大人気商品となったのです。
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初代米国総領事タウンゼントハリスが下田で牛乳を飲んだことに由来して、<ハリスさんの牛乳あんパン>と名付けられています。
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牛乳が練り込まれている生地はしっとりと優しい食感。中身はこしあんと柔らかいバター。その濃厚な二つの素材が絡み合うことで、豊かな味わいが広がります。
お菓子が作られているのは、下田にある工場です。
あれだけ多くの和菓子やあんパンを作るとなると、機械任せの流れ作業を想像します。
けれど、実際にその現場を見せていたたくと想像していた様子とはちょっと違うのです。
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分割された生地を二次発酵させる前に、手の平でひとつひとつ丸めていきます。
工場で作業されているのは車澤正登(しゃざわまさと)社長や奥様、息子さんを含むおよそ15人ほど。
てきぱきと進んでいく作業のなか印象的なのが、人の手や感覚が多くの部分を担っているということ。
たとえば分割されたパン生地を手の平でコロコロと転がすのですが、これも機械任せにはでいない大事な行程なのだそう。
この一手間を加えることによって、生地のふくらみが柔らかく滑らかになるといいます。
焼き上がりのタイミングも、最終的には人の目で確かめて判断しています。
「今日は焼き色がつきにくいからもう少し時間を延長しよう」といった具合で、熟練したスタッフが最良な焼き加減を見計らっているのです。
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発酵した生地。これも、スタッフが培った感覚で時間調整しています。
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ギリギリ焦げるか焦げないかぐらいの絶妙なあんばい。この焼き加減が、皮の香ばしさとなっています。
「うちのあんパンは、和菓子屋が作っているあんパンなんです。」
そう車澤社長が明言する理由の一つは、あんこへのこだわり。
あんパンに使われているあんこは、ていねいに炊き上げられた自家製のもの。
舌触りがよく上品な甘さ、つい後を引くあんこは平井製菓のあんパンの特徴とも言えます。
小豆は北海道十勝産のものを使用し、さらに十勝でも限られた地域のものだけを選んでいるのだそう。
その小豆をしばらく寝かせて乾燥させるなど、ひとつひとつにこだわり抜いたあんこなのです。
車澤社長は、京都の一流の和菓子屋で修行をした経験の持ち主です。
当時、特に没頭していたという干菓子や飴細工などの数々は美しく目を奪われます。
自らが培ってきた日本の伝統菓子の世界を、今後もっと広めていきたいといいます。
「下田に来たお客さんが本物の和菓子に触れることで喜んでくれたら嬉しいですよね。」
日本の伝統を守り、和菓子の世界と真摯に向き合う。
人気のあんパンの背景には、そうした思いが込められています。
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車澤社長がひとつひとつ、すべて手作業で生み出す四季折々の干菓子や飴細工。
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代々受け継がれてきた、干菓子の型。今でも商品作りに使用されています。
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下田が漁獲高全国一位を誇る金目鯛。その金目鯛を型取った最中の中に、手作りの干菓子と飴細工が入っている<金目鯛お干菓子>は今後通年販売する予定です。
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平井製菓4代目、車澤正登社長(中央)と息子さんの正教さん(左)卓さん(右)。息子さんお二人も、代々続く和菓子屋として誇りを持ちながら和菓子作りに向き合っています。
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下田のまちなかにある本店。干菓子はこちらでの扱いとなります。