巷でアウトドアブームの再来と言われるここ最近、田舎町下田にも流行の風が吹いてきて、 気がつけば我が家の小さな自分スペースにアウトドアグッズがたまりつつある。 飯盒3コ、薪ストーブ3コ、ナイフ4本、オイルランタンにアルコールバーナー・・・etc
もう30年近く前、中学生になった僕は毎週買う少年ジャンプや少年マガジンに月一回のアウトドア雑誌BE-PALを加えた。 マウンテンバイクにキャンプグッヅをくくり付けて、 時には伊豆半島を抜けて富士の方へも友達と走り回ったっけ。。 地元の村上書店には椎名誠の「岳物語」が並んでいたな。
マウンテンバイクを走らせながら、頭の中では尾崎豊が「自由になりたかないか~い」とシャウトしていた(兄貴の影響)。
”頭の中でオザキが鳴る”
この時代この光景は全国的にありふれた現象だったに違いない。 いわゆる中二病の前身だ。 だが不都合なことに僕の家はかなりの放任主義だったから特段不自由を感じていなかった。 それでも僕は尾崎豊を聴いては恨んでもいない大人たちへの不満を搔き集める。 「とにかくもう・・」「オトナたちを睨む・・」「家出の計画・・」「自分の存在・・」、、、こんなキーワードが溢れる。 オザキのおかげで盗みたくもないバイクを盗み、吸いたくもないタバコにむせた中学生はあの頃全国に多かったのではないだろうか。 そう考えると僕のように田舎のジャガイモ中学生にとってオザキは迷惑な歌手だったのかも知れない。
だがここで気がついた。 僕にオザキをもたらしその後国際結婚した兄嫁の名は、 ずばり、、、”シェリー”だ。 もしやオザキが影響したのか?と頭によぎったが、「シェリーに優しく叱ってもらっているかい?」、、こんな青臭い疑問は間違っても兄に訊けない。 実際シェリーはとっても優しい。 最近オザキのように親に反抗しまくっているが、可愛いハーフの甥っ子と姪っ子を見ると彼に感謝したくもなる。 オザキは実に複雑な歌手なのだ。
だがそんなことは低山部にとってどうでもよいのであった。
第一、僕はオザキよりもクワタ率いるサザンオールスターズにぞっこんだったのだ。 そうなると僕の嫁の名は”エリー”か”クラウディア”もしくは”チャコ”あたりが妥当なのだが、残念ながら嫁の名付け親である彼女の父は大の長嶋茂雄ファンであった。 と言うわけで僕の嫁は必然的に長嶋夫人と同名の”アキコ”と命名されたのである。 ”チャコ”は回避できたが少し、残念だ。
そうそう、そんなことは低山部にとってどうでもよいのであった。
あの頃に戻りたい、、、とはまったく思わない。 なのにあの頃の気持ちを取り戻すかのようにアウトドアグッズが溜まってゆく。
どうしたものか。
子どもたちを連れて海辺に出かけては誰が一番に焚き火を起こせるか競いに行く。 でも彼らは優しさで父親に付き合っているということを僕は知っている。 僕はただご近所さまの目を気にして子ども達を隠れ蓑にしているのだ。 これはよくない。
そんな時、僕に似た男を二人、見つけた。
仕事の合間を見つけては、一人黙々と山登りする明山さん。(通称アケシン) 東京育ちのシティーボーイ。 嫁さんの故郷である下田に移住してホテル勤務。 移住して数年経ち、衣料品は徐々にひらやま、しまむら、ワークマンにお世話になっていると聞くが、未だに都会の香りを漂わせ、スマートな佇まい。 人とのコミュニケーションが大の苦手というホテルマンとして致命的な性格を持ちながら、毎日フロントに立つという己に厳しい人生を歩んでいる。 山奥に恋人でも居るのか、それとも家庭に居場所が無いのか、美人妻と娘を残して1人いそいそと山通いを続けている。
もう1人は仕事前にさらっと山登りして平気な顔をしている平島くん。 縁あって四国から下田に移住して海辺の素敵なペンションで働いている。 この3人の中では一番若いが3000メートル級の山にも登り、山の知識はもちろん、建築から料理まで知らない事は無いと言うような頼もしい男。 彼の口から溢れる「日本アルプス」「雪山キャンプ」「アイゼン」「ピッケル」など海辺の町では聞いたことのない単語を聞くと目を輝かせずにはいられない。 特に地図への造詣が深く、彼のスマートフォンにはゼンリン、国土地理院、全国三角点地図、などなどその他にも多くの地図アプリが入っているのだ。
そして2人とも見事に性格が地味だ。 この2人に出逢って僕は思った。
「彼らを隠れ蓑にしたい」
これは2人にまだキチンと伝えてはいないのだが、 僕は山登りにまったく興味が無い。 どちらかというとキライかも知れない。
あなたは腕立て伏せに興味があるだろうか? 休日はヒンズースクワットをして一日を楽しく過ごすだろうか? 「空気椅子の姿勢」で踊り子号に乗りアンニュイに伊豆七島を眺めながら読みかけの小説を開けるだろうか? 答えはきっと否だ! だって太ももプルプルだ。
ただただ、増えていくアウトドアグッズを家の外で使ってみたい。 それだけなのだ。 この堪えようのない欲望を満たすために椎名誠文体を借りて僕は2人に懇願した。
アケシンさん!平島くん! 一緒に伊豆の山に登ろうではないか! そして不当にも見過ごされている我らが伊豆の山々の素晴らしさを語り継ごうではないか! 隙きあらば頂上で僕のアウトドアグッズを駆使して美味しい山ご飯でもかき込み、追っかけ珈琲の香りを楽しもうではないか!! 山ガールが通りかかるやも知れぬ!珈琲でも振る舞おうぞ! ストイックに低山を攻める我ら3人こそ真の山男だときっと熱い視線を向けるのである! ムヒヒのフガフガ!!! と、かなり誇張はしたが鼻息荒く訴えたのである。 (ここで長たらしいプロレス技比喩でも付け加えれば限りなく椎名誠文体に近づくはずだ)
彼らは基本的に独りで行動するタイプなのだが、その前に心優しい男たちである。 僕のフガフガ!!にタジタジとなり首を縦に振らざるをえなかったのである。
幸い伊豆には高山がない。 僕への大地からの恵みだ。 ならば低山に登るべ! そうだオレたちゃ低山部だべ!
こうして「下田低山部」が発足したのである。 表向きの目標は近くの山に登ってレポートを書く!
3人の役割分担も決めた。 部長はやはり経験豊富な平島くん。 低山レポートには山登りのアドバイス。 山頂で楽しむ低山スープや低山デザート係。
低山ドリンク係はシティーボーイアケシンさんだ。 低山レポートにはアケシンさんが選ぶとっておきの”山格言”を紹介してくれる。
そして僕は低山ランチ係。 低山レポートも書き、可能なら低山動画も作る。 部室はBBQガーデンにある平島くんが作った小屋。
オザキ、クワタ、シイナと低山にはまったく関係のない大好きな3人が邪魔したおかげで長くなってしまったが これが”下田低山部”が出来たイキサツである。 乞うご期待である。
次回は「初回から富士山超え!大平山」の巻
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