長九郎という山を知っているだろうか? 伊豆に住んでいればきっと何となく聞いたことがあるという人が多いと思う。
その山は伊豆半島の中心から少し南。 松崎町、西伊豆町、河津町に面していて、山頂には絶景が待っているらしい。
前回登山からずいぶん時間が経ってしまったが、そろそろメジャーな山(あくまでも低山!)に登ろうという話になった。 場所は下田から松崎に向かい、婆娑羅トンネルを超えて大沢温泉へ。 旧依田邸の横を通り過ぎ奥へ奥へと入っていく。
池代(いけしろ)という伊豆のマチュピチュ的な郵便配達員泣かせの部落を通り越し、車はぐんぐんと登る。 細くて険しい山道。 伊豆では天城山(仁科峠にかけての尾根)がもっとも標高が高いがこの長九郎(996m)も凄い。 行けるところまで車で上がってくれ!(できれば頂上まで!)と祈り続けたら、悔しいことにゲートが道を塞いでいた。
ここに車を残して登山道に入る。
沢に沿って登っていくのだが、今回の登山はいつも水の気配を感じる山登りだった。 沢の音、わさび田、柔らかな苔。。なんだか山全体がしっとりとしている。 この日は12月だったが、暑い時期でもきっと沢のおかげで涼しげな登山ができるはずだ。
ちょっと気持ち悪いなぁ~と密度の濃い苔に触ってみるとあらびっくり。 すっごいモフモフ感! アルプスの少女ハイジだって苔ベッドをきっと気に入るに違いない。
登り始めて少ししたら沢を渡るポイントが。 どうも大雨で丸太の橋が流されたらしい形跡がある。 男ゴコロをくすぐる最高のシチュエーション! 前を歩くアケシンさんが見事に苔に足を滑らせ冷たい川へドボンすることを神に祈りながらカメラを向ける。
どの山に登ってもこの情けない画像が残ってしまう。
長九郎山に登った僕は家に帰ると嫁にあのフレーズをやっぱり言ってしまった。。
嫁:「どうだった?」
僕:「それがさ~、長九郎山だけに超苦労したよ~」
予想した通りの沈黙が流れる。 僕は自分を深く恥じる。 でも。 人生には避けたくても避けられないことってある。 お人好しの小公女セーラは意地悪な同級生に陥れられるし、 ドリフのケンちゃんだって、わかっちゃいるけど後ろから大仏にひっぱたかれる。 この運命から逃れられないのだ。 それが人間だ。 それがオジさんだ!
常人とオジさんの違いは、言葉への自制心だということをご存知だろうか。 自制心という心のストッパーが壊れた人をオジさんと言う。 さらに症状が進むとそんなブレーキがあったことも忘れ、嬉々としてダジャレやセクハラ発言を連発するのだ。 僕が大臣になったら一瞬で更迭だ。 その時にはしっかり安倍首相に任命責任をこちらから問いたい。
羞恥心が無くなるのがオバさんの症状だとも言うから女性は気を付けてほしい。 間違っても面倒だからとパンチパーマにしちゃ駄目だ!
大自然の中をやっとの思いで頂上につくといきなりこんな人工物に驚かされる。 きっとヘリコプターで資材を運んだのだろう。
これは展望台でこの上には絶景が待っているのだが、登頂した時には 「もうこれ以上登れない~、絶景もいらない~」と絶望的な気持ちになる。
展望台に登ってみれば富士山が僕に微笑みかける。 360度のパノラマ! 東に相模湾。 西に駿河湾越しに南アルプス、清水、日本平、御前崎。 南に伊豆七島(島が立体的に見える!)。 北に丹沢や富士山! すべてが見渡せる最高の絶景がまっている。
いつもの焚き火台に火の準備。 手をかざして暖を取れるのもいいところ。
お待ちかねの低山ランチはサルシッチャと豆の煮物。
コーン、焼き鳥、インドカレーの缶詰も添えてみた。 缶詰料理って家では食べる気しないけれど、山の上ではとっても美味しい。 しかもなんだか無骨でカッコいいではないですか。 映画マッドマックスでドッグフードの缶詰を美味しそうに食べているシーンがあるけど、 僕的にはメル・ギブソンのベストシーンだと思う。
下田の外浦にあるDougというパン屋さんで朝仕入れたパン。
低山スープは平島部長の作るトマトスープ。 部長いわくトルコ風スープと言うらしい。登山の前にちゃちゃっとトルコ方面に一人旅した部長。 毎回エキゾチックな料理を作ってくれる。 でも山の上でなにやらバターで小麦粉を炒めるところからやっている。 何を考えているやらと僕は呆れるが、出来上がったスープを飲むとぶったまげてしまった。。 これは山の上で飲むスープの味ではない! 純白のテーブルクロス、銀製のスプーン、ちょっと緊張しながらホテルで仰々しく飲むスープだ。 濃厚で繊細で、汗が引いて冷たくなった身体がじんわり温まる。 買ってきたパンをちぎってスープに浸して食べると猛烈に美味い! トルコ風の部分が良くわからなかったが、山頂でサラッと絶品スープを作ってしまう平島部長。 本当にこの人は恐ろしい。
アケシンさん担当の低山ドリンクは下田の吉佐美にあるフランス雑貨店で購入したという濃いコーヒーと蜂蜜ほうじ茶。 ここに温めたミルクを入れて濃厚なカフェオレを作ってくれる。 センスのいい毎回のアケシン・ドリンクも山登りの楽しみなのだ。
流石に今回登山は今までとはレベルが違ったが、瑞々しくしっとりとした長九郎を好きになってしまった。 と思ったものの、次の日にはモモとふくらはぎにまるで鉄の棒が入ったような酷い筋肉痛で、 僕は産まれたての子鹿、歩きはじめたクララ状態になってしまい、長九郎を憎むのであった。
アメリカは見える?
360度の展望が楽しめる長九郎山.富士山頂まで直線距離で65km,南アルプス北岳まで114km,神津島まで70km,御前崎まで64km.冬晴れで遠くまでよく見えましたよ.
伊豆北川の黒根岩露天風呂には「アメリカを見ながら入れる野天風呂」と謳われていますね.気持ちはアメリカ,実際はどのぐらいの距離まで見えるものなのでしょうか.
問題.海岸の波打ち際に立って見る水平線までの距離はどのぐらいでしょう? A.約5km B.約10km C.約50km D.約100km どれが最も近い数字でしょうか?
白浜海岸から伊豆大島(約35km)は当然見えますね.三原山は当然見えますが,港は見えないですね.伊豆大島の下の方は水辺線の下に隠れています.それは地球が丸いから.
地球は半径約6378kmのほぼ球体.むかし学校で習ったピタゴラス(三平方)の定理を使うと,見える範囲が計算で求められます.超細長い直角三角形の底辺が地球の半径の6378km,斜辺が6378kmに標高0mから自分の視点の高さまでを足した数.超短い三角形の高さが見える範囲となります.細かい話をすると,大気の屈折で計算より少し遠くまで見えるのですが,今回はそれを無視します.
海岸線に立つ人の目の高さを1.7mとしましょう.直角三角形の底辺は6378km.斜辺は目の高さを足して6378.0017km.そうすると三角形の高さは4.66km. ということで,先程の問題の答えはA.意外と近くないですか?
長九郎山頂から見える水平線(地平線)はどのぐらい遠いかというと,約113kmです.南アルプス北岳までは114kmですが,北岳は標高が3193mなので,問題なく見えます.
それでは日本一の富士山が見える範囲の限界はどのあたりでしょうか.東および北は福島県の花塚山から308km,南は八丈島の東山から271km.西は和歌山県の那智勝浦町から323km.さすがは富士山.天気が良ければものすごく遠くからも見えます.
ちなみにアメリカを日本から見るために展望台を作るとしたら・・ アメリカ本土は遠すぎるので,ハワイまで約6200kmで計算すると,なんと高さ4969kmのタワーを作ると,頂上からハワイが計算上は見えます.地球をぐるぐる回っている国際宇宙ステーションは地上からたった400km.4969kmのタワー展望台は登るだけでも大変そうです.そもそも自重で崩壊するので建設もできませんが・・
あえて逃げられない場所に行くことで、誰もが恐怖を乗り越え、成長するための力を生み出すことができる。
栗城 史多
今回の格言は元ニート / 元引きこもり、とも自称し、「冒険の共有」をテーマに全国で講演活動なども行なっていた栗城 史多氏のもの(因みに”元~”というのはTV演出上の設定とのこと)。氏は2018年5月に自身8度目となるエベレスト登山を敢行したものの、途中で体調を崩して下山中に滑落死。生前中は「日本人初となる世界七大陸最高峰の単独無酸素登頂に挑戦」を掲げ、年に1,2回ヒマラヤエリアで高所登山活動を行なっていた人物である。
氏の活動にはアルピニストとしての力量やその活動に関して、賛否の二つの論が挙がっていた。2012年10月には凍傷により、右手親指以外の指9本を第二の関節まで切断。それでも尚、エベレスト登山にトライし続けていた氏のアティチュードの中から、今回ピックアップしている言葉は生まれてきているのであろう。“指を切断した状況での登頂”こそが、より”あえて逃げられない場所”への極み、とでもいうような。だが、そのストイック的な志向はともすれば、”無謀”という厳しい言葉に変換されてしまう。
逃げられない場所へ向かうことで、経験を積み、結果として恐怖を乗り越えた結果、人が成長していくのは間違いない。ただ、その”あえて逃げられない場所”へ行くに己が値しているか否か、に関しては、やはり冷静な自己判断や第三者の意見が必要であるのも、また間違いない。
低山、というと、気軽な印象があるけれど、その多くはあまり人が訪れることなく整備されていないことなどもあり、一定の高さのある高山より危険なケースもある。自分も東京にいた時は、単独で山登りをすることが多かったけど、さほど難易度の高くない山で滑って、手を負傷したりしたこともある。下田に移住してから、部長やヒロくんと共に行動して低山ハイクをすることによって、その”無謀”さをうまく回避できていることは、良いことのひとつ、だと思っている。
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