柿崎桟橋の風景 ヨットマンとビルフィッシャー

2012年 8月 28日

柿崎桟橋の風景 ヨットマンとビルフィッシャー

伊豆の先端にある下田湾。この湾の隅にある小さな柿崎桟橋は僕が住む家の目の前にある。
毎日代わる代わる船がこの下田湾に入港しては桟橋に静かに繋がれる。
窓からその様子を眺めるのが日課で小さな楽しみでもある。と言うかここに住んみれば否が応でもそうなってしまうはず。

テレビのない我が家の生活(テレビはありますが、いわゆるテレビ番組は映りません)では
目もち無沙汰気味。
窓から湾内を眺めるのが小さな娯楽と言えば言えなくもない我が田舎生活。

「おっ!今日は新型の格好良いボートが来たぞ・・」

「うぁー!美女がビキニ姿で寝っころがってる・・」

「あれれっ!あのでかい船は若大将(加山雄三さん)の船じゃないか!?」

僕は見たことがないが若大将が夕暮れ刻にデッキの上でウクレレを弾いていた!なんて眉唾だけど本当ならラッキーでロマンチックな目撃談も。。

彼が所有するコウシン丸は西伊豆の安良里港(アラリ)がねぐら。下田港と安良里港の近さならあながち嘘でもなさそう。

たくさんのボートや船がこの桟橋に駐船されるが、その種類は概ね2つ。

カジキを釣るためのエッジの利いた船首にボテッとした船体のフィッシングボート。
突き立つセイルと丸みのあるほっそりと長くて柔らかな印象のヨット。

ヨット大会「トランス相模」の出港準備風景

下田ではこの湾を基地に、二つの大会が毎年行われている。
1つは、国際カジキ釣り大会
もう1つは、トランス相模ヨットレース(その他にも小さな大会がおこなわれている)。

同じ海の上を進む船なのに、この二つには大きな隔たりがある。
その隔たりは二つの船の姿以上に、何と言うか所属する世界そのものが隔絶している。

世界が違えば付随する諸々も違ってくる。。船に乗り込む人の服装、帽子、靴、喋り方・・みんな違う。きっと世界観も、哲学も・・違うはず。

第一、海での目的が違うのだから違って当たり前かもしれない。
大海原で魚を捕まえることと、風を掴まえること。。
海で楽しむことがマリンレジャー。きっとこの二つの船それぞれが、その世界の両極端を象徴しているのではないかと思ってしまう。

あくまでも個人的な印象だけど、例えば、ヨットを楽しむ人たちの服装は色褪せたポロシャツかよろよろのTシャツ・・半ズボンにデッキシューズ(靴下なし)。。
帽子は概ねサファリハットと呼ばれるようなツバが360度ついたヨロッとした感じ。良く日に焼けていて細身の人が多くて物静か。
水平線の向こうを見ているような控えめでゆったりとした視線はなんだか哲学的だ。。

いつでも何艇かのヨットが係留されている

ちなみに海の世界には「ヨットマン」と言う言葉があるらしいが、これはヨット乗り全てを言うわけではないそうだ。ヨット乗りとしてのその人の生き様、人格面が大いに大切で、ヨット歴が長いからといって「ヨットマン」になれるとは限らない。

ヨットに乗って単独世界一周を成し遂げた堀江謙一さんなど数人がその偉業と精神的な高潔さゆえに
ヨットマンと呼ばれている(女性のヨットマンもいます)。
まさにヨット界の聖人。

カジキ釣りの人たちは真新しいポロシャツか下ろしたてのTシャツ(そこにはBILLFISH TOURNAMENT SHIMODAなんて格好良く書いてあったりする)、靴だって白くてピカピカだ。金のネックレスやブレスレットもキラリと初夏の陽射しを反射して眩しい。釣り人の恰幅だって良い。声もデカイ。賑やか。よくゴルフの話をしていてデッキの上でスイング練習も。ん~、なんだか自信に満ちているしパワーも満ちている。要するに一目見て誰だってわかると思う、バリバリのお金もちだなぁ~!

もちろんどっちが良いか、悪いか?なんてない。
下田の人間にとってはカジキ釣り大会時には街の飲食店が大いに賑わう。
ヨット乗りの人たちは控えめで質素な感じだけど、海に浮かぶその美しい姿は確実に観る者の心のどこかを満たしてくれる。

海の駅「柿崎桟橋」

仕事が休みの日の夕方、子供をつれて桟橋を散歩(実は桟橋の先端から飛び込んで泳ぐのが毎夏の楽しみ。でも桟橋の管理者から毎回怒られるので、目を盗んで・・)していたら、ヨット乗りの人たちが楽しそうにゆったりと船の上でビールを飲んでいた。
なんだかその風景がとってもいい感じ。
夏の夕方、昼間の攻撃的な陽射しとは違い太陽の光は柔らかくなっている。ヨット乗り達はそれを惜しむようにゆったりと味わっている。きっと次の日にはこの海とは程遠い日常の仕事に戻るのかもしれない。。

その日の夕方 柿崎桟橋の風景

この桟橋には色々な世界に属する人がやってくれけれど、共通するのはここに居られる限られた時間を楽しもうという真面目でひた向きな姿。遊んでいるのに真面目というのは真逆のようだけど、でもそうなのだ。限られた貴重な時間だからこそマジメに遊んでいる。そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。

まるで夏休みが終わるのを心から名残り惜しんでいるような。。

そんな姿はなんだかイジらしくて懐かしい気分にさせる。

この記事を書いた人

焼家 さわち

海辺の小さな田舎町。 美味しい料理、心暖まる風景を紹介します。 職場は駅近くの焼家(焼肉)。
他にもこんな記事を書いています。

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