旅情を誘うよ・・あぜりあ丸 つづき

2011年 12月 14日

旅情を誘うよ・・あぜりあ丸 つづき

下田から見た伊豆七島の一つ利島

あぜりあ丸に乗って家出

前回から引っ張った「あぜりあ丸」話。

”次回は「あぜりあ丸に乗って家出」です”なんて書いたけど、実はとても皆さまに自慢できるようなシロモノでは御座いません。
何故なら時間にして正味8時間近く、しかも家出と自覚しているのは本人だけ。
親に対する反抗心から家出をしたのなら、その親も気がつかない家出を果たして「家出」と声高らかに言ってしまっても良いものか(言ってしまったけど)悔いているところであります。
この不甲斐の無さでは全国の家出少年・少女に顔向けできません。
ついつい「船に乗って家出」と言う何とも心躍る魅力的な字づらに負けてしまいました。。

それでも自分なりに思い詰めてあぜりあ丸に乗り込んだのは事実なんです。

十五の夏

夏祭りの若い衆

夏祭りの若い衆

あれは忘れもしない15の夏でした(大人に反抗するには15歳と言うのは良い年頃です)。
僕は高校に入ったら絶対に「若い衆」として下田の夏祭りに参加する!と心に決めていました。

体操服の上にハッピ姿の子供御輿はもう沢山だ!俺も若い衆に入って大人の世界を見てみたい!
あわよくば焼酎のコーラ割りなんてものにもありつけるかも知れない!

幼なじみの○○ちゃん(なみなみ店主)はもう肉襦袢を着て下田夏祭りのエリートコースを突っ走っている!カッコイイ・・(今では1町を率いるお頭です)。
何せ下田の子供たちにとって夏祭りの「若い衆」ほどイカシタ存在はありません(詳しくはこちらを)。
宮入りのあの陶酔感は下田八幡神社が観衆に仕掛けるマインドコントロールです。小さな頃からどっぷりとその陶酔感に浸ってしまった自分にとって将来の夢は神主の思惑通り「若い衆」でした。

まさかの祭り禁止令

島へ!

島へ!

兄も高校に入ってからは「若い衆」でそれは楽しそうです。だから15になれば自分もと当たり前のように考えていたのですが、思うように行かないのが世の中です。

兄の思い切った羽目の外し方と己の若い衆時代(父も祭り馬鹿です)を思い出し危険を感じたのか、あろうことか突然祭りへの参加が禁止になりました。

そりゃないぜ父ちゃん!・・と掛け合ったのですがダメです。色々と反抗は試みましたよ。
店の手伝いをしない。口をきかない。ハンガーストライキ・・。でも夏は店が忙しいので気がついてもいない様子。

祭り当日の8月14日、早朝から聴こえてくる太鼓の音が悔しくて悔しくて何故か自転車に(盗んだバイクではないです)飛び乗って向かった先はあぜりあ丸でした。
15の自分にはなかなか大きな額の乗船券を握り締めて島に向かいました。
結果的には夕方下田に帰ってきていました。その半日の間は船が接岸している時だけ島に降りてぼーっと荷降ろし作業を眺めていたくらいです(その手際の良さは見もの!)。
けれど不思議と自分の中にある怒りのタンクが空っぽです。
今でもよく覚えているのが、船の航行中に身を乗り出して海を見ていると、船に驚いたトビウオが逃げるようにビックリするくらい沢山飛んでいたこと。8月の熱い真っ盛りなのに海上は清々しくて島では下田とは違う時間が流れていたこと・・・。
そんな感じで15歳の家出は不調?に終わりました・・・けれど僕は本気でしたよ。

あの寅さんだって・・

下田港を出るあぜりあ丸

下田港を出るあぜりあ丸

この船に乗って愛しのあの娘とデートしたことも・・・。
雨が降っていたし海が荒れて散々でしたが・・。

じつは あの寅さんだって第36作でいつもの恋心抱いて下田から式根島までこの船に乗っている!(あじさい丸かも?)

今はとて わが身時雨に ふりぬれば
言の葉さへに 移ろひにけり

現代変訳
かつてはこの船に乗って家出もしたし、恋もしたものよ。今となっては沢山の年月が流れちゃったから抱いた怒りや恋心も言葉も色あせてわすれちゃったなぁー。あぁ、それでも「あぜりあ丸」は今日も変わらず出港するのね・・・あのよろし。

と、ポロリとその頃高校の古文の授業で暗記させられた小野小町の詩。まさかここで役立つとは・・驚きになりにけり。

異空間をつなぐ乗り物

帰港

夕方4時過ぎに見事なスピンターンで帰港します

さて、我が恥をさらすホロ苦な思い出は置いといて、この「あぜりあ丸」がつなぐ下田と伊豆七島(の幾つか)は距離は近いのに 時間の流れが確実に違います。
陸の孤島シモダの人間が言うのもなんですが、式根島のあのゆったりとした懐かしさ漂う空気。

いくら田舎と言われても今ではコンビニが立ち並び、ハンバーガーショップに大手牛丼屋、光通信だって可能になってしまった東京から二時間半の下田。僕にとって島はやはり異空間です。 そんな異なった二つの空間を毎日行き来する「あぜりあ丸」。否が応でも神秘的な乗り物に思えてきます。

このあぜりあ丸の一等船室には布団が用意されているのですが、その毛布は花毛布と言って花の形に畳まれています。これは客船に受け継がれている独特の文化で技術のいる珍しいサービスとのことです。

2回に渡り小野小町まで引っ張り出して熱く長くなりました。
下田から出航する「あぜりあ丸」。島に渡るにも、デートにも、家出にだってバッチリです。
下田の観光に飽きたら、ゆったりと川沿いを桟橋まで・・帰港時のイカリを引きずりながらのスピンターンは見ものです!
と、書いている途中、夕暮れの下田港に船が帰ってきましたよ(家の窓から見えるんです!)。実はあぜりあ丸は数日前から年に一度のドック入りです。今日はピンチヒッターの「ゆあ丸」です。この船もマニアの間では幻の船と言われているとか・・・。

あぜりあ丸の運行情報

この記事を書いた人

焼家 さわち

海辺の小さな田舎町。 美味しい料理、心暖まる風景を紹介します。 職場は駅近くの焼家(焼肉)。
他にもこんな記事を書いています。

コメントする