岡崎第3回タイトル改々

 一番寒い冬の大潮の日、干潮の時間帯になると近所のおばあたちが竹製の籠を背負って磯に繰り出す。海苔とワカメが混ざったような味がするハンバ海苔を採るためだ。

採ってきて、すのこに四角の枠を作った中に並べる。

A3サイズで市価500円ほどもする。

 炙ってご飯にかけたり、みそ汁に入れたり、磯の香りと歯ごたえ、ぬめりがいいねえ。

海苔でもワカメでもないハンバ海苔。

 この時季には真っ黒の磯海苔も獲れる。

日当たりのいいところには、季節の風物詩よろしくこれらの海苔が乾かされている。

こんな光景を散歩の途中で見かけるようになると、冬来たりなば、春遠からじ……そんな気持ちになってくる。

ここ下田では、春は海から、潮の香りとともにやってくるのだ。

乾かされていたはんばや岩のりが、すのこから片づけられても、おばあたちは、大潮の干潮時にやはり磯にいる。

ひじき採りが始まるのである。

岩にくっつくひじきは、こげ茶色をしている。

満潮時には海の中に沈んでいるが、干潮時には姿を出すのだ。採って竹籠に入れ、家に持ち帰る。

一年中作業場の横にあるドラム缶にきれいな水を溜め、下から薪で炊く。

もちろん薪はその前に、山で木を伐採し、用意しておかなければならない。

沸騰したらひじきを入れて一日近くグツグツと煮る。

やがて茶色のひじきが黒くなってくる。

磯の香、潮の香りがあたりに漂う。

煮終わったら、これもすのこで天日干しする。もう四角の枠は要らない。

この頃、早咲きの河津桜が、濃いピンクの花びらを散らし始める。

ソメイヨシノと違って開花時期が長いのがこの桜の特徴だ。

乾かすとひじきは、海の中にいる時とはまったく様子が異なってくる。

水分がすっかりなくなって、真黒く干からびて、もしゃもしゃとすのこの上で春の陽光を浴びている。

そこにピンクの花びらが舞い落ちる。

おばあたちは急いでひじきを片付け始めるが、黒とピンクの色の対照がそれは見事で、僕は黙って見つめるばかり。

ふと気がつくと、紫色のスミレがさりげなく道ばたを飾り、黄色い菜の花が元気よく空に向かって咲いている。

緑色した草むらを探してみれば、これも緑のフキノトウが隠れているよ。

そうこうするうち、直販所にはワカメやワカメの茎のめかぶが並び始める。

海では黒いワカメは、湯に浸すとサッと鮮やかな緑色になる。その見事な変化は、ハッとするほどだ。

下田の春は、海から運ばれてくる。

Photo: Nobuo Sato

Photo: Nobuo Sato

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岡崎大五 プロフィール

岡崎大五(おかざき・だいご)

1962年、愛知県生まれ。
約80カ国を巡る旅の後、30歳で帰国し、海外専門のフリー添乗員として活躍。その後、自身の経験を活かして『アフリカ・アンダーグラウンド』『北新宿多国籍同盟』『汚名 裏原宿署特命捜査室』など、日本と海外事情を絶妙に対比、融合させたエンターテイメント作品を発表している。
○年より下田に移住。 執筆活動を続けながら、下田暮らしを満喫中。