お盆を過ぎると、クラゲが出ると言われるが、下田の海水浴場で、この時期にクラゲに遭遇したことはない。
毎日のように海に入っている僕が言うのだから、たぶん間違いはない。
海で感じるのは、むしろクラゲよりも波の質の変化だ。
八月初旬くらいまで、晴れれば湖のように凪いでいた海が少しずつ波立ちはじめる。まるで地球の鼓動であるかのように、大きなうねりが入り、同時に台風シーズンの幕開けとなる。
雑節によれば、九月に入って二百十日、二百二十日と言われる日がやってくる。
これは立春から数えた日にちのことで、昔から三大厄日とも言われ、嵐の日と恐れられていた。
波が立てば風が起こる。普通は風が吹けば波立つのだが、はるか南の海上で吹いた風が波を生み、その波の上を遡上するように風が押し寄せるから、そう感じるのだろう。
台風来襲ともなれば、山の中にある我が家では、周囲の杉やシイノキが、激しく音を立てながら、左右に三メートルも振られ、いつか折れるのではないかと、見ているだけで鳥肌が立つ。
事実、近所の見晴らしのいい家に、直径十五センチの木の幹がガラスを突き破って飛んできたのは、2004年のことである。この台風22号は、さほど離れていない石廊崎で67.6m/sの風速を記録し、伊東や修善寺などでは大きな被害にみまわれた。
なるほど、見晴らしのいい家とは、風をまともに受けやすい家のことでもあったのだ。
九月から十月は、波を感じ、風を感じる。それらと重なってくるのが大潮だ。月の引力に海面が引っ張られるため、海が膨張するのだ。春と秋は、一日に二度、満潮の時間帯に、地球が月にもっとも接近する。そこで、こう言った自然現象が起こる。台風が来れば、気圧の低下でさらに海面が上昇し、高潮となる。
逆に干潮の時間帯には海がグーンと遠くなる。春には、潮干狩りという行事があるわけだ。秋の場合は、もっとも潮が引く干潮の時間帯が夜になるため、行事とはなっていないが、通人は、人のいない秋にこそ、二番目に潮が引く昼間にこっそりと通うようである。
普段は山に住んでいるアカテガニが、いそいそと海に産卵に向かうのも大潮の夜。道路には、車にひかれて潰れたカニを見かける。かたや人間界では、病院で多数の赤ちゃんの産声が響いていることだろう。
波が立つ、風が起こる。
そして見逃せないのが中秋の名月である。最近はスーパームーンが有名になったが、浜で満月を楽しむのは最高である。イベントがないのが不思議なくらいだ。
漆黒の空に満天の月、海のざわめき、虫の泣き声、時にはウミガメが上陸してくるかもしれない。 そうそう、クラゲの話であった。 海に波が立つ季節、クラゲが出るぞと脅かすことで、古の日本人は、海を知らない人たちに危険を知らせようと考え、それが定着したのではないのか。
僕にはそんな風に思えて仕方がないが、皆さんは、どう思われますか?
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