土屋 修さん

1970年生まれ。18歳で板前を志し、30歳の時「閃味処 料磨」として店を構える。 金目鯛と素晴らしい出会いを持つ男。

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植松 幹男さん

1960年生まれ。老舗「美松寿司」の三代目。漁師の娘を家内に持つ。
四代目を継ぐ次男が東京で修行中。

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キンメとの素敵な出逢い


お二人が店主としてお店を持たれて何年でしょうか?


俺は3代目で店をついでから20年近くかな。24歳の時だったよ。


小さな頃から寿司職人になろうと考えていたんですか?


長男に生まれた以上家業を継ぐのは当たり前で、親や先生の言うことも絶対だった。
そんな時代だよ。

 
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料磨さんはどうですか?


18年かな~。1999年にもうすぐ世界が終わるんなら店を持とうって話でさ。

<一同> ハッハッハッハ!


お店を始められた頃から金目鯛を使っていましたか?

使ってたよ。 俺が下田に戻ってきたのは22歳ころで、なが里(今は無き下田の和食の名店)に修行に行ったわけ。 そこでキンメを使ってたの。しかも地キンメを。
そこで俺はじめてキンメを喰ったんだよ。
「何!? この美味い魚!って」。


それまではキンメに対する偏見はなかったんですか?

キンメ自体が俺にとってフワッとした存在だったから、キンメの煮付けなんて喰ったことなかった。 で、修行先のなが里で食べて「やべ!超ウマイじゃん!って」

俺が店を継いだ頃はまだ使ってなかった。   
キンメが流行りだしたのは2000年から。(※2000年に伊豆で創造祭イベントが開かれ、伊豆の食材に大きく光を当てた) でもうちはあの頃まだ偏見があったね。
だから最初はこんなもの、ダメだろって。

<美松寿司の女将 カナエさん>   そうは言うけど、私は小さな頃から食べてたわよ。 お父さんが漁師だから釣りたてのキンメを刺身や煮つけで。 朝の2時頃お父さんが漁に行って日戻りで帰ってくるの。

うぁ、凄い! 
という事はカナエさんは小さな頃からキンメの美味しさをいち早く知ってたということですね!?

そんなこと言ったって、こいつ魚にあたってるからね。病院に行ってるんだから!
古いやつを喰っちゃったんだ。

<美松寿司の女将 カナエさん>  それはアタシじゃないわよ!お父さんよ!

一同  ハハハハハ!

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下田と白浜(カナエさんの実家がある)とは違うんだ。

昔と食文化が違うんだよ、たぶん。江戸時代にマグロのトロを捨ててたみたいに。   
いまは脂の乗った魚が美味しいですよって時代。
キンメの人気がなかったのは、船の冷凍技術が無かったから。沖に行って一週間前に獲れた魚を余ってるからって皆で食べたけど美味いわけないでしょ。腐りかけだよ。
それでキンメは不味いってイメージが付いちゃった。
今は保存の技術が上がって、そんなことないよね。俺の子どももそうだけど、子どもたち皆キンメ好きでしょ?

はい!
でも僕の家はキンメは美味いってマインドコントロールしてるかもしれないですが。
おめでたい席や楽しい時にキンメの煮付けとかお刺身を出すようにしてるんです。
だから子どもに好きな食べ物は?って聞くと、ハンバーグとキンメってなるんです。
キンメだけ料理名でなくて素材として。


おまえそりゃ良い育て方だ!


俺も東京に出ている娘が帰ってくるたびに美味いキンメを食わしてるよ。


同じ料理人でもキンメに対する気持ちって違うんですね。

ほら、オレの場合はキンメとの出逢いが素晴らしかったからね。
初めて食べたキンメが本当に美味くてさ。素敵な出逢いしちゃったから。

 
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それは刺身で?それとも煮付けで食べたんですか?


刺身だったね。

 

どんどん値の上がる金目鯛と料理人の意地

 

料磨はキロ7000円でも買いやがるんだよ。(普段はキロ3000円辺りが地金目鯛の相場)俺も魚屋に幾らでも出すからキンメを売ってくれ!って頼んだことがあるけど売ってくれねえんだよ。こっちは予約が入ってどうしても必要なのに。


え!それはどうしてですか?


そんなことをすると相場が崩れるって言うんだ。

もともと安かった金目鯛が今は高級魚になってどんどん値段が上がっていますよね。お二人とも苦しくないですか?


苦しいね~。


苦しくない訳がない!

 
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でもこの傾向は止まりそうもないですし、最終的にはお客さんへの売値に乗せられれば良いのではないですか?

<二人>    
乗せない!乗せない!!


お店が苦しいだけ!?


高い仕入れのものは安く提供したいってのがコイツ(料磨さん)の気持ちよ。

基本さ、観光客は安心して食べられるお店だと思って来ているわけ。
キンメの町だからキンメが安く食べられると期待して来るわけですよ。
下田の料理人としてその期待に応えたいよね。
こだわって高い魚仕入れてもそのまま売値を上げるわけにはいかない。


それではどんどん苦しくなって、我慢大会じゃないですか。


俺たちゃ〜、我慢すりゃいいんだよ~(←すでにお酒が入ってます)。

 

おりゃ~、塩焼きが好きだ!

 


最近外国人さんが多くなってきてますが、キンメを食べに来ますか?

 
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来るよ。今日も2人で一人前の寿司を食べてったよ。


2人で一人前ですか?足りるのかなぁ?

怖いんだろうなぁ。恐る恐る味見って感じだよ。
でも俺が下田スタイルの寿司だから「チャレンジ!チャレンジ!」って言ったら食べたよ。

昔は外人さんがわざわざ下田に美味い物を求めて来なかったけど、今は違うね。
キンメやサザエを求めて食べに来るんだよ。事前に調べて。時代が変わったんだな。


だけどあいつら醤油をたっぷりつけるな。

最近この下田でも金目鯛を使った色々な創作料理が出てきていますが、料磨さんはどう感じていますか?

俺は下田の料理ってのは都会に比べて20年近く遅れていると感じてたんだよね。
でもキンメを使って居酒屋で、洋食屋でどんどん新しい料理を作ってる。テレビの影響もあるのかもしれない。
手軽に食べられるようになった。凄く良いことだと思うよ。
でもうちはどうして高い金目鯛を仕入れているかって言うと、その価値を分かってくれる人がいるからだよ。そして新しいお店にも刺激をもらってるんだよね。

 
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美松さんにはキンメに対してもう偏見はないんですか?

偏見も何もキンメが(仕入れて)無いと帰ってしまうお客もいてそんなこと言ってられないんだよ。


お客さんはどんなキンメ料理を求めいているんですか?刺身?煮付け?


うちは圧倒的に煮付けだね。


うちは3種類のキンメの寿司があるよ。生、炙り、漬け。

キンメってさ、鮮度が良ければ何やったって美味いんだよ。
でも時々うちに来るお客さんが言うんだよ。〇〇って店の料理は不味かったとか。
でもどんな板前さんでも不味く作ってやろうなんて考えて料理を作る奴はいないよ。
だから俺はお客さんに、それはたまたまお客さんの舌と板前さんの味覚がズレてただけだって言うんだよ。


バカ!努力もしない下手な板前だっているわ!

 
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キンメだって処置の仕方で新鮮なものもダメにもなる。うちは5日間寝かして、脂を上手に載せるようにして。それが俺たちの仕事ってことだろ。

鮮度が良いに越したことは無いよ。あとはこっちの問題だから。〆方、寝かせる時間、お客の口に入るまでの時間。
それは俺たちの腕だから。でもさ、鮮度が悪くちゃ処置のしようもないしさ。

なるほど!本当はキンメも釣り上げたその日じゃ駄目なんですね。何日か寝かせて脂がのらないと。


その日のキンメは使えないね。


料磨さんはキンメの一番好きな食べ方ってなんですか?


俺は酒呑みだからさ、うーん、塩焼き!それも6月のやつね。


お~、刺身でも煮付でもなく、塩焼きですか!ちょっと意外な食べ方ですね。


美松さんは?


俺はさ、基本喰わないけど、、まぁ塩焼きだな。

 
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美松さんもですか!?

俺もお客さんに言うんだよ。どうせなら6月に下田に来なって、そしてバッチリ脂ののった塩焼きを食べてみなって。
うちの不動のNo.1だよ!

 
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バカ!6月のキンメは卵を持ってるからあんまり食べちゃいけないんだよ。
キンメがいなくっちまうじゃねえか。
だから本当は6月のきんめ祭りもどうかと思うよ。
どんどんキンメが減って大変なんだよ。

 

6月のキンメってそんなに美味しいんですか?

 


確かにキンメが獲れなくなってきたと聞きます。
でも、きんめ祭りがあることでキンメの漁獲高が変わるものなんですか?

 
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そりゃ一緒だよ。変わらない。


そうかも知れないけど、考えていかなきゃならない問題だよ。


小さなキンメは獲らないとか、漁師も漁獲制限を設けているとかって聞くけどね。

俺は下田の人間が本当にキンメを愛しているなら、島キン、沖キン、地キンをしっかり分けて伝えるべきだと思うよ。
脂の乗りが違うんだから。下田の市場に揚がれば全部「下田キンメ」ていうブランドになる。。言葉のマジックだよな。


地キンメ以外は駄目ってことですか?

 
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ダメじゃない、沖キンでも美味いものもある。でも俺は職人として地キンメしか使わない。惚れてるから。

料磨さん、料磨さんが6月のきんめ祭り発起人と聞きますが、6月のキンメってそんなに美味しいんですか?

キンメは1年中美味いよ!
でもね、6月のキンメはハズレがないんだよ。全体のレベルがグーンっと上がる。
6月のキンメを塩焼きにしたら、そりゃ本当に最高だよ。


下田のきんめ祭りどうしたらもっと良いものにしていけますかね?


俺はそれほど盛り上げる必要無いとおもうよ。現状でもうちはやれてるしよ。

美松さんは口でそんなこと言っても「町のためだ」って言えば何でも協力してくれるんだよ。
この前東京で下田きんめ料理振る舞いイベントをやった時だって、直ぐに息子に電話して協力するように言ってくれたしね。
※美松寿司の息子さんは4代目になるべく東京ヒルトンホテルで寿司職人として働いています。

美松さんの娘も職人を目指してるんだよ。
なかなか思うようにいかなくて苦労してるみたいだけどさ。
※美松さんの娘さんは現在オーストラリアの寿司店で働いています。

着々と次の世代が育ってきているんですね~。
美松さんや料磨さん達の代から金目鯛の価値を見直し、美味しいキンメ料理で下田を金目鯛の町にしました。
そこには別のインタビュー(きんめ漁のこと。教えて松村さん!)
で知った漁協や漁師さん、仲買さん達の努力がありました。
これからも下田は金目鯛と良い関係を作れたら良いですね!
今日はありがとうございました!

 
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