テレビ朝日系で人気の高い食べ物の番組と言えば「食彩の王国」。この番組は最高の素材をテーマにその素材にまつわるエピソードや付随する文化を掘り下げていくクオリティーの高い番組として知られています。
そのような少し敷居の高い番組に下田、南伊豆の下田S級サザエが取上げられました(放送は3/16)。
でもみなさん、下田S級サザエってきっと初めて聞く名前のサザエではないでしょうか?実は地元下田でも知らない人が多いサザエなのです。
このS級サザエっていったいどんなサザエで、「S」とはどんな意味なのか?
※現在(2016年)S級サザエは個体数の減る周期に入っています。残念ながらあと4・5年は捕獲量が極端に少ないため取扱店に出向く方は事前にご確認下さい。
幾つものSが物語る特大のサザエ
- Simoda(下田)
- Sazae(サザエ)
- Size(サイズ)
- Sensuiryo(潜水漁)
- Sendo(鮮度)
- secret(知る人ぞ知る隠れた逸品)
これらのキーワードがS級サザエのエッセンス。このS級サザエをとっても簡単に説明しますと、神子元島(みこもとじま)で潜水漁によって獲れる400g以上のサザエのことなんです。
下田S級サザエが獲れるのは下田の沖合い11kmに浮かぶ無人島の神子元島。
ここは釣り人憧れの島でもあり、沈んだ難破船の上をハンマーヘッドシャークが泳ぐような美しく豊かな海を持つ有名なダイビングスポット。けれどこの海域は潮の流れが速く船が難破することもしばしばなんです・・。
南から注ぐ栄養分たっぷりの激しい流れの黒潮がこの神子元島にぶつかり、この島の根に元気で豊富な海藻を育てます。この海藻、サザエにとっては大のご馳走。ムシャムシャと栄養たっぷりのご飯を食べて、激しい潮の流れに鍛えられればカラダはおのずと大きくなりますよね。
普通なら大物のサザエになる為には何年もの年月が必要です(S級サザエの規定である400g以上には通常6年~)、でも年数が必要ということは大物は必然的に人間で言えばお爺ちゃんお婆ちゃんと言うことになります。う~~ん年寄りサザエ・・何だか語感的に美味しそうではありませんね。
これでは身体が大きいからと言って美味しいか?と言えば疑問ですよね。
それではS級サザエが何故美味しいかといいますと、カラダは大きいのに歳はとっていないからだと言われています。神子元島の特殊な環境で育ったが故に成長が早いということです。これが下田S級サザエ出生の秘密。
そしてこのS級サザエはそんな大きなサザエの中でも400g以上であり、かつ潜水漁で一つ一つ獲られた物を指します。大きさもさることながらS級サザエの美味しさを支えるのがこの危険な潜水漁です。
エビ網といわれる網で獲られることの多いサザエ。この漁、効率は良いのですがサザエに傷を付けストレスを与えます。このストレスがサザエの鮮度を落とすと言われているのです。
下田市役所職員が再発掘した無名のサザエ
地元でもあまり知られていないこのサザエ。その理由は漁獲量の少なさ。危険な海域での潜水漁。。その危険さ故に地元でも数隻の船しかこの漁に従事していません。その為、主に東京の料亭に卸されるだけの特大サザエでした。
この特大サザエに最初に目をつけたのは下田市役所の職員でした。下田の吉佐美区(海辺の集落)でのお祭りの寄り合いの席でのこと。このお祭りに参加した市役所職員の前に無造作に置かれた神子元島で獲られお刺身になった特大のサザエ。このあまりの大きさと美味しさに彼は圧倒されたのでした。
実はこの職員さん他所の町の出身です。地元の人間ならサザエが食卓に上ることも、時折特大のものを見ることもあります。あるいは特大サザエに特段驚くことも無かったかも知れません。しかし外からの視点では確かに驚愕のサザエです。
この驚きを形にしようと市役所職員有志が集まり「貝国のまち下田S級サザエ會」を立ち上げ地元への周知などPR活動を始めたのでした。
花水季の「下田S級さざえエスカルゴ風」
今回「食彩の王国」で取上げられたお店花水季。しっとりとした割烹料理が人気のお店です。亭主にお願いしてテレビでも紹介された「下田S級さざえエスカルゴ風」を作ってもらいました!
花水季の親爺さんが生簀(いけす)から取り出したのは700g超えの特大サザエ。この特大サザエを特殊なナイフを使って手際よく殻から身を引っ張り出します。
親爺さんはいとも簡単に活きサザエの身を取り出すのですが、これなかなか難しいんです。サザエだって喰われてなるものか!っとまさに死に物狂いで抵抗します。身を縮め硬い蓋をギュッと閉めて閉じこもります。こうなったらどんなにノックをしても僕なんかには心を開いてくれません(活きサザエで刺身を作ろうとしたけど身を取り出せずに諦めた事もありました・・)。
でも親爺さんは慣れたもの。サザエが抵抗する間も与えずササッと身を引っ張り出します。この手際の良さが小気味いい。
この身から蓋の部分を取り外し、一番上側についている吸盤のような部分、その下の白くて貝柱のような部分と肝の3つに切り分けます。洒落ではありませんがこの緑色をした肝の部分がこの料理のキモになります。悪しからず。。
身の部分は包丁で切り身にし、肝はサッと湯通ししたら流水で汚れを洗い流し、木ベラでギュッギュッと裏漉します。この肝を他の調味料と合わせてエスカルゴソースを作るわけです。
雪平鍋にペースト状になっているエスカルゴソース(・玉ねぎの微塵切り・ニンニク・砂糖・バター・オリーブオイル・味噌)を入れ、裏漉したサザエの肝を加えます。
木ベラで丁寧に掻き雑ぜながら鍋肌にフツフツと泡が立つタイミングで切り身にしておいたサザエの身を入れサッと混ぜ合わせます。
小さな厨房の中に割烹料理屋とは思えないバターとニンニクの華やかな香りが立ち昇ります。サックリと全体を混ぜ合わせたら、親爺さんの親戚が営む山葵田(わさびだ)から摘んできたワサビの葉をサザエの殻に受け皿として盛り込み、ワサビの花を横にあしらって出来上がり。
一口食べてみると・・絶妙な歯応え!
生と言えば生なのですが、ほんのりと火が入ってもいます。普通サザエの刺身といえばゴリッゴリッとしているものです、ですがこのエスカルゴ風のサザエの身は柔らかだけど吸盤側のしっかりとした肉と、貝柱側の白くて瑞々しい肉がクニュクニュとシャクシャク、2種類の心地よい歯応えがあります。
味は決して強くはなく、柔らかで控えめな感じ。でも控えめだからこそゆっくり目を閉じてどんな調味料が使われているのか探り当てたくなります。
エキストラバージンオイルの爽やかな若草色の香り、バター、ニンニク、胡椒の華やかさをまったりと甘い味噌の風味が全体をまとめています。かすかに感じるほろ苦さはきっとサザエの肝の苦味。この繊細な苦味が味に奥行きを与えているようです。ゆっくり息を吐き出せば身にまとっているサザエ本来の磯の香りも消えずにしっかりとそこにある。
う~~ん・・・しみじみと美味しい。
日本酒でもワインでもどちらにもバッチリと合う予感。
親爺さんに予算を訊くと、100gで350円ほど。今回のサザエは700gだから2000円強。特大のサザエだから3~4人で丁度良い量です。
これは是非とも下田に来たら味わって欲しい素材と料理です。
他にもまだまだある!下田S級サザエを扱うお店
下田には下田S級サザエ料理を楽しめるお店がまだまだありますよ。是非お試しあれ!
開国厨房なみなみ
刺身・天ぷら
開国厨房ぼちぼち
刺身
開国厨房なかなか
刺身
磯料理ゑび満
刺身・壷焼き・バター焼き・酢の物・お茶漬けなど
とん亭
刺身・壷焼き・唐揚げ・かき揚げ・五目卵とじなど
いけす磯料理 辻
S級サザエのステーキ