下田には関西から移り住んできた、野人と名乗る人がいます。
下田の暮らしを楽しみたくて一眼レフを買ったそう。
彼は「なんで下田は長年いても飽きへんのやろ?
そんな町、そうはないと思うで」としきりに言うのです。
「下田は海しかないなんてちゃうやろ」と。
「この町の良さを見せてあげたいと思うんや」と。
ならば彼の目に映る下田を紹介してもらおう、ということになりました。
気がつきそびれてるものに、光を当てて。
懐中電灯役のカメラと一緒に、下田を探し歩きます。
#015
「今、コーヒーかまへん?」
「あー、いいよ」
開店前やのに、快く迎えてくれたカフェ「くしだ蔵」の店主、雅志さん。
僕は甘えてカウンターに腰かけた。
櫛田雅志さんと久美子さん夫婦が営むカフェ「くしだ蔵」は、下田の街中に佇む古い蔵をリノベーションしたもの。
家康も愛したという“伊豆石”と、この地方でよく見かける“なまこ壁”でできとる。
「最近、散歩してはる?」
「ぼちぼちはじめよーかなと思ってる」
他愛のない会話をしたあと、「写真撮っていい?」とカメラを向けると、
「へへ、いいよ。その辺片づけるから」と雅志さんは照れくさそう。
「ごめんね、ちらかってるから。ほほほほほっ」と奥さんのくーちゃん(久美子さん)。
「いや、ふつうでええよ、ふつうで」と僕。
ここの名物は、カレーライス。
特に、くーちゃんが作るチキンカレーは絶品!
それもそのはず、二人で実地見学のためインドまで行かれたという折り紙付き!
コーヒーをいただいている間、厨房では仕込みが始まった。
雅志さんが大鍋を火にかける。
ゆっくりと撹拌してる間に漂う緊張感、まさに真剣勝負・・。
張り詰めた空気にしょーもない冗談を言いたなる。あかん。
レンズ越しに見つめていた3分ほどの間、
ひと言ふた言、くーちゃんが雅志さんに手順を伝える以外は、無言。
自分たちが美味しいと思うものをここまで丁寧に作るご夫婦。
仲の良いことも美味しさの秘訣ちゃうやろか?
2022-10-10