下田には関西から移り住んできた、野人と名乗る人がいます。
下田の暮らしを楽しみたくて一眼レフを買ったそう。
彼は「なんで下田は長年いても飽きへんのやろ?
そんな町、そうはないと思うで」としきりに言うのです。
「下田は海しかないなんてちゃうやろ」と。
「この町の良さを見せてあげたいと思うんや」と。
ならば彼の目に映る下田を紹介してもらおう、ということになりました。
気がつきそびれてるものに、光を当てて。
懐中電灯役のカメラと一緒に、下田を探し歩きます。
#016
「でぶちん!」
SOULBAR TOSAYAの主人、よっちゃんが看板猫のでぶちんに話しかける。
でぶちんは、いつもびくびく入口で中の様子をうかがっとる。
「待っててね!」と、よっちゃんがでぶちん用のご飯を作り始めた。
牛乳と買い置きの猫餌の2品。
牛乳は少し温めて、水を足して飲みやすくしてあげるよっちゃん。
「うちではさー、小さいころから犬も猫も飼ってて、動物好きなんだよー」と目を細める。
「これあげるとこれしか食べなくなるからなあ・・」
と、猫にとって魅惑の「ちゅ〜る」を一旦しまう。
「ほんま、これすごいらしいで。知り合いの猫も『ちゅ〜・・』って言うとダッシュでくるらしいわ」
「そんな美味いのかー、野人味見してみなよ。笑」
「嫌やわー」
でぶちん、あとで幸せそうに食べとった。
ここ最近、でぶちんは姿を見せません。
コロナが落ち着いてきて店も賑わってきたのに看板猫は何しとるんやろ。
寂しいなあ、車に跳ねられてないかなあ、とみんな心配しています。
そんな中、不意にでぶちんの母猫ピッチが店にやって来たやんかー!
「おおー!元気か〜?」と思わず声を上げてしもた。
長生きやな〜、また来いよ〜、とよっちゃんと喜んだ。
SOULBAR TOSAYAはペリーロードにある江戸時代の蔵だったバー。
吉田松陰が拘禁前に私物を預けたという場所。
洒落た店内で、音響も良くて、50年代、60年代のソウルミュージックをかけてくれる。
店もよっちゃんもカッコええから歴代の野良猫たちも看板猫になりたがるんやろな。
僕はいつも、カウンター右端に座る。
音楽に包まれながら知った顔と話してると時間が経つのを忘れてしまうわー
「ブラッディー・メアリー頂戴!」
「もう身体のためにトマトジュースにしとけば?」
・・・ほな、そうしよかー。
2022-10-20