下田には関西から移り住んできた、野人と名乗る人がいます。
下田の暮らしを楽しみたくて一眼レフを買ったそう。
彼は「なんで下田は長年いても飽きへんのやろ?
そんな町、そうはないと思うで」としきりに言うのです。
「下田は海しかないなんてちゃうやろ」と。
「この町の良さを見せてあげたいと思うんや」と。
ならば彼の目に映る下田を紹介してもらおう、ということになりました。
気がつきそびれてるものに、光を当てて。
懐中電灯役のカメラと一緒に、下田を探し歩きます。
#019
「どんなんがええやろ?」
お世話になっているご婦人の誕生日プレゼントを探してふらっと町中へ。
ふと目についたのが「ふきがらす」と書かれた看板のお店、橋米商店。
赤、青、緑・・綺麗なグラスが所狭しと並んどる!
そや、ガラスはどうやろ?
店内に入り勇気を出して聞いてみた。
「すみません。ご婦人へのプレゼントを探してるんですが?」
すると、店の方が指をさしたのは、赤い玉の小さなイヤリング。
「年上のご婦人でも、この小さいのなら、派手さはないのでワンポイントになっていいのではないでしょうか?」
うん、ええ感じや。きっと似合う!と、ひとりほくそ笑む。
後日プレゼントを受け取ったご婦人が嬉しそうにしてくれた顔が忘れられへん。
それが今から5、6年前。
今更ながらプレゼントした時の報告がてら久々にお店を訪ねた。
「あれ?もう小物はないんですかー?」
「はい。今は小物を作る職人さんがいなくなりましてね」
あーっ、ここでも後継者問題なんかいな。
お店をつくって35年になるそうやけど、手作りの世界も様変わりしとるんやなー
こんな素敵なグラスを作る職人さんも減ってるんやろうな。
そう思って店内を見ると、色鮮やかなグラス達が、「よ―きたなー、まぁーゆっくり見てみー」と手招いとる。
中でもひときわ目をひいたのは、ふちが赤い輪になっている「口巻」というワイングラス。
あのイヤリングと同じ赤や!
「昔は、『口紅』と呼んでいたものです」と店主さん。
へ〜っ、粋な名前やなー!
よっしゃ、今度お金貯めてこれを一対買うでー
ほかの棚もよく見ると、足の長い金属製のランプを発見!
「なんだか魔法のランプみたいな形ですねー!」
「魔人は出ませんよ」
「いや、野人ならいつでも出ます!」
「ふふふふっ・・・」
店内に溢れる笑い声。
涼しげなガラスに囲まれてるのに温かい時間やった。
僕は赤い色ガラスの向こうには笑顔が見えると思うわー!
2022-11-20