第35話「音楽の聞こえる港町」
下田八幡神社例大祭
昔は、夏になると、祭りが全国で催され、特に盆踊りは、その地元の一大イベントだった。
盆踊りでは、お囃子に合わせて、踊りを踊る。
それに対して、祭りの神輿には音楽がほとんどない。
ここ下田では、2種類の祭りに大きく分かれる。
町中の祭りと町中以外の祭りだ。
特に、町中にある下田八幡神社例大祭の祭りには特徴がある。
道具と言われる喧嘩神輿、大きな神輿を担ぐもの、そして太鼓台といわれるお囃子付きのものである。
大抵の祭りは神輿祭りが印象的だけど、下田の町中の神輿には音楽付きなのである。
厳密にいうと、「そりゃ、そりゃ」と掛け声の後に、太鼓台の行列がお囃子を奏でてあとをついてゆく格好だ。
このように、町中の祭りは他の祭りに比べてにぎやかで、3種類の出し物を楽しむことができる。
まちびとの音楽気質
小さい時から祭りに出て、知らずのうちに、音楽に触れるというのも下田っ子ならではのことである。
お囃子には、三味線、横笛、太鼓の楽器が登場する。
昔は、芸者衆が三味線を弾いて祭りに参加したそうである。
自ずと大人になっても音楽好きが多くなる。カラオケを入れている店が多いのもうなづける。
だから、地元のミュージシャンというのも誕生することになる。
あるいは、ライヴコンサートを店で開くということも多く見られるということにもなる。
「ブージー・ブルース・バンド」
こうした音楽好きが高じて地元でバンドを組んだ人もいる。
ここで一組のバンドを紹介しよう。
「ブージー・ブルース・バンド」は、カフェ「櫛田蔵」の主、櫛田雅志さんを中心にした、主にブルースを演奏するグループである。
楽器演奏者のテクニックの質の高さもさることながら、雅志さんのハスキーな歌声は人を魅了する。十八番の♪Georgia on my maid♪は、いいんだなーこれが。心をつかまれちゃう。
カフェ「櫛田蔵」では、ライヴ会場も提供している。
一例を挙げれば、私が関わった、2015年6月の「カンツォーネ歌手 青木純 カンツォーネライヴコンサート」もこの店で開催した。
「ハーバーライト」
町中には、「櫛田蔵」のようにライヴ会場を提供する店は他にもある。
その一例として、バー「ハーバーライト」をとり挙げてみよう。
店主、鈴木勝士さんはロカビリーなどアメリカの曲をこよなく愛する人で、色んなミュージシャンを招いてコンサートを開いている。
例えば、風変りのところでは、冬場に開催される「セ三味ストリート・ボーイズ」の三味線ライブである。
一見堅苦しいような邦楽分野だけれど、この人たちの手にかかると、最先端の音楽アレンジをこなし、新たな響きを奏でてくれる。見事なパフォーマンスの数々で、聞き手を全く飽きさせない。
新しもの好きの下田っ子には受けること間違いなしである。こういう目新しいものも聴けるのが下田である。
黒船が運んできた音楽の贈り物
見てきたように、現在の下田っ子の音楽好きは、私見であるが、すでに黒船が来た時に端を発しているように思う。
ペリー艦隊の乗組員が隊列を組んで、了仙寺まで行進した際に、その中に軍楽隊がいて、アメリカの音楽を演奏しているのである。
「アルプス一万尺、こやりのうーえで・・・」
聞いたことのある曲だと思うが、この曲も演奏された。
当時この行進を見物していた、下田っ子の耳には、まさに新しい音、新しい音楽が雪崩のごとく流れ込んできたに違いない。
例大祭のお囃子を身をもって体感できる人たちである、どうしてあちらの音楽に慣れない訳がないじゃありませんか?
ということは、今の下田っ子の音楽の魂の一部には、黒船が運んできた音楽の魂、伝統が息づいているのではないだろうか?
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