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第12話 前編3つの橋の物語り~ロンドン・ヴェネチア・下田~

3つの物語りが織りなす様々な「橋」の姿。時と場所が違えども「橋」のもつ意味と愛着は今も変わらない。一瞬の芸術にまで昇華される「太鼓橋」は世界で下田にしかない!!!
 

3つの橋の物語り~ロンドン・ヴェネチア・下田~(前編)

 

暗いイメージを持つロンドン橋

 
 私が訪れた夏のロンドンは例年になく快晴の日が続き、南欧のような陽射しがキラキラと降り注ぐ幸運に恵まれた場所だった。
タワーブリッジの塔をくぐり抜け、橋の歩道を歩いているとテムズ川が意外なほど大きな川に見える。
この橋の下流には、「♪ロンドン橋落ちた、落ちた、落ちた・・・」という遊び歌でご存知のロンドン橋が架かっている。
その昔この橋は木製の橋だったが何度となく崩壊したために石の橋になった。
あまりにも橋が崩れるので、建設時に人柱を立てた。
日本の「錦帯橋」でも行われていたという人身御供である。
人柱になる人間には、その魂が夜でも橋の崩壊がないか監視し続けられるようにランプと魂が生き続けられるためのパンを持たされていたという。
一説によると、この遊び歌はこの人身御供を選ぶ遊び歌だと言われているが、真相は分からない。
ロンドン橋にまつわる暗い物語には、黒いタールを塗った処刑された罪人の首を晒すというものもあった。
 
 古来より、橋の建設は聖職者の仕事であった。
それは聖職者が橋の建設のノウハウを熟知していたことにも起因するが、橋の意味と深く関わっていたことからも分かる。
橋は一方の岸から、向かいの岸を繋ぎ、川を渡るために、また水を運ぶために作られた。
一つの世界から、別の世界へ渡る、行き来するため、此岸から彼岸へとわたるイメージももっている。
この世とあの世とを結ぶ橋は、聖職者にとって俗世と聖域の象徴的架け橋だ。
そうした宗教的な意味合いもあり、古代ローマでは大神祇官(ポンティフェクス・マキシムス、Pontifex Maximus)の官職称号には、Ponti=「橋」、fex=「作る」という言葉が入っている。現在のローマ教皇の正式名はこの「ポンティフェクス・マキシムス」の称号でもある。
ロンドン橋にまつわる暗い話、つまり「死」のイメージと物語は、この言葉に関わる聖職者の仕事、存在と結びついたものなのである。
 

ケンカが一国の郷土意識を育んだヴェネチアの「ゲンコツ橋」

 

 今度は少し視点を変えて、珍しい橋の物語をご紹介しよう。
イタリアはヴェネチアに飛ぶ。
ヴェネチアと言えば水の都で知られているが、この橋も沢山ある運河の橋のひとつである。
ドルソドゥーロ地区にあるこの石橋は、通称「ゲンコツ橋」(Ponte dei pugni)と呼ばれている小さな石橋である。
太鼓橋になっていて、低い階段が少しついていて欄干がない。
ものの20歩も歩けば向こうに着きそうになるので、たくさんの人は一度には渡れない。
この石橋で決闘が何度も行われたので「ゲンコツ橋」と呼ばれていて、もともと本土の2組の集団の対立が発端とも言われている。
橋の片方は「東」の赤のベレー帽を被り赤の腰帯を身につけたカステッラーニ組、もう片方は「西」の黒のベレー帽を被り黒の腰帯を巻いているニコロッティ組の二つに分かれ、石橋の中央で睨みを利かせあう。
ケンカにはちゃんと儀式があり、審判も決まっていて、参加人数や日取り、時間も取り決めを交わしていた。
合図とともに石橋には沢山の人間が押し寄せ、素手、石、ナイフ、小枝を振りかざし殴りあいのケンカになる。
溢れかえった人間は橋から落ち、またぞろ登ってケンカを続け、死ぬものも沢山出たそうである。
橋の周囲は人で埋められ見物人が気勢を上げ、その場は騒然となり、組とは関係ない人間も参加して最後は混乱の中、終了の合図で終わる。
1705年に禁止されるまで何度もケンカは続けられた。
 
共和国側はこのケンカを遠巻きながら煽っていたようであり、暴動の起こるときには両組を操って鎮圧するような巧みな駆け引きを行っていた。
このような一見深い対立があるようなことも、国家の危急存亡の事態には両組が一丸となって国を守る主力となった。
共和国の民衆の潜在的なパワーが絶えず新陳代謝することで国は内外の不均衡に対処したのだった。
この真剣なお祭り騒ぎは宗教的な意味はほとんどなく、民衆のむき出しの感情が爆発するものとなり、その舞台はひとつの小さな石橋であった。
ケンカは対立の構図だが、橋によってヴェネチア国民である意識、誇りを確認する意味も持っていたのである。
 

ヴェネツィアのげんこつ橋

ヴェネツィアのゲンコツ橋

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岩崎 努

京都出身、2013年に念願の下田移住を果たす。
普段は小学生の子供たちの宿題をみる野人塾の傍ら興味の尽きない歴史分野、下田の歴史を調査中。
周りからは「野人」と呼ばれている。
酒好き、読書好き、ジャズを中心に音楽をこよなく愛す。