第26話もうひとつの伊豆の踊子~中島敦と梶井基次郎~

早逝したふたりの作家、中島敦と梶井基次郎。
忘れ難い伊豆の宝物。
 

「中島敦」

「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」という川端康成の書き出しはあまりにも有名です。
それに対して、高校の教科書にも載る書き出しで、「隴西の李徴は博学才頴、天宝の末年、若くして名を古ぼうに連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとはしなかった」という格調高い書き出しでわれわれの目を奪った、中島敦も忘れ難い作家です。

この作家は、1909年(明治42年)5月5日に東京の四谷に生まれます。
父親の転勤で場所を変えますが、1927年18歳の時に、下田を旅します。
そして、11月に「下田の女」という作品が活字になった最初の作品として世に出します。

この「下田の女」という作品ですが、その後の作品で出てくるテイストと少し異なっています。
作者なのか、「私」という主人公が下田を旅して一人の女と出会います。
その女から話を聞くという想定です。
女はある男性から言い寄られますが、すげない返事をするばかり、でももうひとりの青年には熱い思いを打ち明けます。
この男性への正反対のコントラストを浮かび上がらせて執筆しています。

「女性の心」、「その魔性のような魅力」。

中島はこの女性の「性」の機微を突いています。

18歳の青年には到底かけそうにない内容です。
そこで妄想します。
彼に、下田で何かあったのか?と。
恐らく何もなかったでしょう。
しかし、下田という場所、または当時の「唐人お吉」の話から着想を得たことだけは確かだと思います。

その中島敦も33歳の若さでこの世を去ります。
 

「浄蓮の滝。作家のふるさと、伊豆」

「浄蓮の滝。作家のふるさと、伊豆」


 

「梶井基次郎」

文章の達人として、また伊豆にゆかりのある作家として、中島敦とともに忘れてはならないのが、梶井基次郎です。

梶井は1901年大阪に生まれます。
いわずと知れた放蕩の学生生活を送るのですが、肺病みで苦しみます。
三好達治の勧めもあって、伊豆の三島に赴きますが、1926年12月の年の暮れに品川から伊豆へ向かいます。
現地の人の勧めで西伊豆へ行こうとしますが、中伊豆の湯ヶ島温泉にたどり着きます。
当時この近辺には川端康成が逗留していて、梶井はその元を訪れます。
川端には気に入られたらしく、「伊豆の踊子」の校正なども手伝っています。

川端、梶井のもとに作家仲間や友人が多く訪れたのもこの時期です。
1927年3月までには、梶井は「冬の生」という作品も書き上げます。

翌年には伊豆を離れ、1932年に31歳という若さで亡くなります。
 

「ふたりの死と伊豆」

ほんのひと時、下田、伊豆を訪れた青年ふたり。

何かにつかれたように必死に生き、作品の中に何かを見出すその姿は、下田に住む僕には痛々しい。
何か、自分と強い糸で結びついているように思えてなりません。

それにしてもその死はあまりにも若い。

ヒュースケンが若くしてこの世を去ったように、伊豆にかかわる若い星たちの生はあまりにも短かったのです。

ペリー、ハリス、お吉、助蔵、ヒュースケンの名前が出てきたら、この二人の名前、中島敦と梶井基次郎も思い出してください。

彼らは下田、伊豆を愛していたのだと・・・。

コメント一覧

  1. 宇津木 実花

    え!!もっと続きを読みたいです!

    中年以降になってからですが、中島敦の
    虎になる作品、山月記は、、短編ですが、いや短編
    だからこそ、心に迫りインパクト強く、
    とても惹かれる作品。

    奥様との、エピソードなどを新聞掲載で読んだ事があります。
    内面全部を奥様にさらけ出されなかったようですが、作家として
    温かい目で支えられいたようです。

    話は変わりますが、森見登美彦氏の新釈 走れメロス は、
    ご存知ですか? 山月記も出てきます。その文豪が残した
    作品のタイトルとその本筋を借りて、
    自己アレンジした短編集、中々面白かったです。
    山月記 も

  2. 有名な文豪がとりつかれる。下田には不思議な魅力があるのですね。
    次回はゆっくり滞在したいと思います。

  3. 宇津木 実花

    山月記 の現代アレンジも 中々面白かったです。

    タイトルと その話の筋と言うか、軸を 自分の人生経験や架空の
    アレンジで 創作するのも、面白そうですよね。

    時代や 時空を越えて、今を見つめる、、
    生きているからこそ出来る技、万人に与えられたワザ
    これからも、愉しんでいきたいですね!
    お昼のひと時、マッサージ機にかかりながら、笑
    野人さんの創作を楽しく拝読させて頂きました。。

  4. 実花さん、コメントありがとうございます。まだまだ知られていない名作がドッサリありますよ。ぽつりぽつり、そのへんを読んでみたいと思います。野人

  5. たーみーさん、コメントありがとうございます。下田にはゆかりの物語があります。ぜひお会いしてその所をお聞かせしたいと思います。よろしくです。野人

  6. 下田を訪れた二人がどこに滞在されていたのかといろいろ想像すると楽しいですね。

  7. 中島清さん、コメントありがとうございます。梶井が泊まった宿はわかっていますが、中島はどこなのかわかりません。そういう遊びも面白いですね、作家の行動を追うというのも・・・。野人

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岩崎 努

京都出身、2013年に念願の下田移住を果たす。
普段は小学生の子供たちの宿題をみる野人塾の傍ら興味の尽きない歴史分野、下田の歴史を調査中。
周りからは「野人」と呼ばれている。
酒好き、読書好き、ジャズを中心に音楽をこよなく愛す。