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第28話~白い絵本~ (下田編)

「人食い山」

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「そこでだ」と金之助は酒を呑みほして善太郎の顔に近づいて小声で話し出した。
 
「お前も知っての通り、縄地には金が出る。どうだ、明け方にちょっと行ってみねーか?」
 
これを聞いて善太郎は顔を曇らせた。
 
「でもよ、それはやばいずら。見つかったら大ごとだで」
 
「それによ、爺さんからあの山は恐ろしいところだと聞いてるで・・・」

 
そらきたとばかりに金之助は話を遮り酒を注ぐ。
 
「いや、なに、あそこには親戚もいるで、ちと畑を手伝いに行くといいやー疑う者もいめーよ」
 
金之助は杯を仰ぎ、一息ついて、「じゃ、明け方おらの家の前でな
 
そう言うと、不安げな善太郎を置いて金之助は店を出た。
 

「この道を右に行くと、海岸辺りのおらの親戚の集落に出る。でもわしらは左のほうへと・・・」
 
背負子を背負い鍬を担いだ若造たち二人は、太陽が昇りかけたけもの道を足場の悪さで右に左に体をひねりながら歩いてゆく。
 
「話によると、この地蔵さんの草むらから少し入ると祠があって、そこが一番新しく掘られた穴があるはずずら」
 
そういって、金之助は薄明りの草むらを先陣切って歩き始めた。
 
草むらは、森の木々が開けた場所で、広々としていた。そこだけがやけに見晴らしがいい。
 
草むらの少し背丈の低い草が生えているところに、真新しい石造りの祠が見えてきた。
 
「ここだ!ここだ!はよー来い、善太郎!」
 
そう言って、金之助は背負子と鍬を傍らに置いて、祠めがけて歩みを速めた。
 
「あっ!」
 
金之助がもう祠に着くかと思われた瞬間、善太郎の前から金之助の姿が消えた。
 
「金之助!大丈夫けー!どうした!」
 
善太郎が金之助の消えた辺りに着くと、そこに人が一人スポッと落ち込むほどの穴が開いているのが見えた。
 
善太郎は穴をのぞき込み、ぶるぶる震えながら叫んだ。
 
「金之助!金之助!大丈夫けー!」
 
草むらには、ポツンと背負子と鍬が置かれていた。
 
太陽の光が善太郎の顔を染め始めると、辺りも明るくなって、草むらの全体が明らかになり始めた。
 
何と、金之助たちがいる場所の草むらに無数の禿げのような穴が見えるではないか。
 
独りになった善太郎は、爺さんの話を思い出した。
 
「ほんまじゃ。山が人を食いよった」
 
そう言うと善太郎は腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
 
草むらには初夏の爽やかな風が吹き抜け、途方に暮れる善太郎の乱れた髪を揺らすのだった。

コメント一覧

  1. 穴とは何の穴だったのでしょうか?レインボーマンの師匠でかつブッダのライバルだったダイバダッタはいきなり足元に穴が開き、落ちるまで数百年数千年かかる地獄まで堕ちていったそうですが・・・

  2. nakasimaさん、コメントありがとうございます。そうですね、前後の話がないとわかりにくいかもです。縄地には江戸幕府直轄の金山がありました。それ故、閉鉱後もいろんな話が残されているんです。縦穴は、空気抜きの穴かもしれないし、採掘の初めの穴かもしれません。いずれにしろ、この深い穴に落ちた人はいたようです。まだまだ実をいうと話はあるんですけどね・・・。野人

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岩崎 努

京都出身、2013年に念願の下田移住を果たす。
普段は小学生の子供たちの宿題をみる野人塾の傍ら興味の尽きない歴史分野、下田の歴史を調査中。
周りからは「野人」と呼ばれている。
酒好き、読書好き、ジャズを中心に音楽をこよなく愛す。